2020年、誰も予想しえなかった嵐が世界を覆った。汚れた疑心が跋扈し、底知れぬ猜疑のあやかしが、次々と私たちを襲う。「闇」ならば、火を灯して進むこともできよう。けれど、闇すらもそこにはなく、あるのはただ、果てしない空漠。そんな時を何日も過ごした。
漠とした無重力の海に、いよいよ赤松林太郎が音楽という帆を掛けた。大切なライフワークである子どもたちのための愛らしい小品集を皮切りに、プライベートレーベルの配信プロジェクトを本格的に打ち出す。本作は、Vol.2と銘打ちながら、実質的にはその第一弾とも言える。
当代きっての歌詠みがこの時代に編んでゆく、けなげな音の小舟たち。いにしえに、はるか彼方のまだ見ぬ国へ漕ぎ出した人々は、このアルバムにこめられた郷愁をきっと胸の奥に抱いていただろう。儚い時代に凛として立つ、心の灯台。目が離せないプロジェクトが始まった。〔加藤哲礼〕